失くした夏

休館日で、公民館のドアは、かたく閉まっていた。
貼り紙を見て、ホッとひとつ、安堵の息をはく。

きびすを返し、次の目的地に向かおうとしたら、法師蝉が鳴きだした。

惜しい、惜しい、と鳴いていた。

不意に。
飛びっきり暑くて、残酷な夏の終焉を、やっと実感する。

7月6日から、途方も無く、長く感じた夏だった。

多くの人たちが、何かしら、大切にしていたモノを、失くした夏だった。

ボクも、わずかだが、大切にしていたモノを、失くしていた。

つらいとき、かなしいときこそ、笑えと言う人がいる。

笑えなくても、飛びっきりの笑顔で迎えてくれる人がいたら、それだけで、おおいに救われる。

たぶん。

ボクは、それだけで、何とかこの、どうしようもなく、無力感に苛まれた夏を、乗り切ってこれたのだと思う。

感謝してる。

心から。

ありがとう。

いつも、飛びっきりの笑顔を見せてくれて。

アナタが、ボクのイノチだった。

タイセツなアナタへ。

ほんとうに、ありがとう。

また、明日からも、ガンバレル。

ダレカノタメニ。



ボクは、無人の公民館の敷地を後にし、次の目的地へと、車を走らせた。

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