人間ドックで要治療判定が出て、ドックを受けた総合病院に来ている。
今日は、数年前悪性の腫瘍に倒れ、1年ほど早く退職されたHさんを、人の波が押し寄せる会計フロアでお見かけした。
初め、歩きながら横目でチラッと確認しただけだったが、車イスに乗っていらしたので、ちょっと驚いてしまった。
悪性の腫瘍は克服し、再就職されたと伺っていたのだが、どうかしたのかしらと考え、少々話しかけるのをためらってしまった。
しかし、出無精のボクがHさんと会うのは2年ぶりくらいだったし、Hさんには感謝してもしきれないほどの恩を受けていたので、意を決して、さりげなくあいさつに伺った。
すると・・・血色の良いお顔をもたげ、満面の笑みでボクを迎え入れてくださったHさんが、たいへん意外なことをお話してくださったのである。
『その後、薬が効かない病気になり、余命数か月と宣告されて、往生しよるんじゃわ』
余命・・・
まだ、六十代半ばなのに・・・
ボクは思わず絶句しかけたが、Hさんのあまりに屈託のない話しぶりにすっかり魅入られ、たぶん、かなり微妙に笑顔を引きつらせながらも、長々とお話に興じさせていただいた。
Hさんは、人事課時代の上司で、気さくでサッパリした人柄ながらも、周りの雑音に負けず、キレ味鋭い判断で仕事を進められる、数少ない尊敬・信頼できる方だった。
ボクが人事課を異動した後も会うたびに声をかけてくださり、十数年前にボクが病気で数か月の長期療養に入った際は、復職時に異例の異動辞令を発令して、全く今までと違うストレスの少ない部署で、通院しながら勤務を続けられるよう配慮してくださったのであった。
実際、異動後1年で通院しなくてもよくなり、さらに半年後にはすっかり元気を取り戻すことができたのだから、命の恩人と言っても過言ではないくらいお世話になっていた。
会計を済ませた奥様が戻って来られるまでの短い時間ではあったが、人事課時代やボクも在籍していた情報処理の部署時代に一緒に働いた方々のことを、たくさん話してくださった。やはり、その話しぶりや話の内容からも、たいへん慈愛に満ちた仕事をされていたのだな、と改めて感じた。
別れぎわ、握手を交わすと、とても温かい手をしておられた。
『また、職場を訪ねて行くわ』
明るく微笑みながら、手を振ってくださった。
ボクも、努めて明るく微笑みながら、手をあげた。
車イスの後ろ姿が見えなくなると、泣けて仕方なかった。
余命数か月・・・
ボクは今、ちゃんと生きているだろうか?
いつ、余命を宣告されてもいいように・・・。
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