中学一年生のときだった。
その年ごろは、男子同士、女子同士集まれば、『ダレがスキ?』と、互いのお目当ての異性を探り合うのが、当り前だった。
当時、可愛い転校生のコに色めき立つ男子諸君のひとりだったボクは、なぜか男子同士でも素直にその転校生がスキと言えず、なんとなく別のコ(N子としておこうか)がスキなことになってしまっていた。
当初は特別な感情は全く無かったのだが、夏のキャンプなど、学校行事を経るうち、なんとなく、ホントにN子がスキになってしまったボクは、秋の夜長に、高鳴る心臓のバコバコを抑えながら、一通のラブレターを書き上げた。
翌朝中身を見直して、大丈夫と自分に言い聞かせ勇気を振り絞ると、便せん二枚のラブレターを郵送した。
胸が痛む日々がいく日か過ぎ、やがて家の郵便受に白く素っ気ない無地の封筒が届いた。
高鳴る鼓動を抑え、封を切ってみると・・・便せんが二枚入っていた。
ボクの書いたラブレターだった。
ラブレターは、赤ペン先生のキツい添削を受け、真っ赤になっていた。
彼女の書いた添削の内容は、ハッキリとは覚えてないが、ただ、『こんなことをする人を私は軽蔑します』の一言と、『軽蔑』という漢字を初めて目にしたことだけを鮮烈に覚えている。
とても、恥ずかしかった。
全て、無かったことにしたかった。
一年ほど時は過ぎ、中学二年生のこと。
ホームルームで班別の話し合いをしていたとき、隣りの班の男子が不意にボクの方を振り向き、
『なぁなぁ、これホント?』
・・・何の話?
『N子にラブレター書いて、添削して返されたって』
咄嗟のことに何も言い返せず、カァーッと一気に赤面するのが分かった。
隣りの班の爆笑の渦の中心に、N子のイタズラっぽい笑顔が見えた。
『もう時効だから笑い話にしてもいいでしょ』と、彼女の顔に書いてある気がした。
絶望感で、今すぐに、消えて無くなりたかった。
以来、女性と正しい恋愛ができないまま、今に至っている。
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