相棒をなぜか手放すことになり、手続きをしていた。
『この後、このイヌは、こちらから移送されて、もう戻せなくなりますが、本当によろしいんですね?』
『はい』
明言はされなかったが、移送先は、もう二度と会えなくなる場所だと思った。
別れを名残惜しむこともなく、ひとりの帰り道で、弟が向こうからやって来た。
『お父ちゃん、どんな感じ?』
父は入院が長期化していた。
『あんまり変わらん』
そうか、と言って立ち去る弟を振り返り、背中越しに声をかけた。
『あのなぁ、イヌをなぁ・・・』
手放したことを、さらっと告げるが、弟もあいまいな返事で、何と言ったのか分からなかった。
そこで帰る方に、体の向きを戻した。
すぐに、道の左手に、白っぽいものが落ちているのが見えた。
さっき手放した相棒だった。
急ぎ足で近づくと、右脚がドス黒く汚れて、潰れかけているのが分かった。
全体的に、ボロ雑巾のように、毛がぐちゃぐちゃになっていた。
心臓が締め付けられるように、高鳴った。
しゃがみ込んで、顔を抱き抱えると、右眼が腫れ上がり、顔半分が、やはりドス黒く汚れている。
開いている方の眼に、微かに意思が宿るが、相棒は、クゥンとさえも発することが出来ない。
瀕死の重傷。
何とかしないと。
何とかしないと。
何とかしないと。
救急車?
イヌの病院?
電話は?
電話番号が分からない?
だいだい、ここは、どこなんだ?
見慣れない路地。見慣れない街並み。
どうしたら?
どうしたら?
どうしたら?
胸が張り裂けそうになり、涙が止めどもなく溢れた。
そうこうしている間も、相棒の状態は、どんどん危険な領域に陥っていく。
どうしたら?
どうしたら?
どうしたら?
うおぉぉぉぉぉーーーーー・・・!!!!!
分からない。
分からない。
分からない。・・・
目が覚めた、らしい。
まだ、胸が張り裂けそうなくらい、高鳴っている。
涙がどっと堰を切ったように溢れた。
やっと、夢だと思ったが、あまりの鮮烈な衝撃に、身体の力がなかなか戻ってこない。
意識が何とか正常になるまで、数分を要した。
何で、こんな夢を見てしまったんだろう?
その事が気がかりで、今日は全くダメだめな一日になってしまった。
ホント、何で?
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